現実の小さな世界 飛び出して 
クレヨンしんちゃん」を手がけた原恵一監督



  100年後、緑が豊かであってほしいと願う未来像は、僕らの子供時代にはなかった発想です。 自然さえも人間がコントロールできると思っていたから。 「技術の進歩はもう十分」という意見には同感だし、うれしいですね。

  シルバーでギラギラな千年後というのは、昔と変わらない。 35年前の大阪万博。 僕は小5でした。 親を拝み倒して、群馬から出かけた会場には未来のにおいが漂っていた。 人間洗濯機に地面から浮かぶ車……示された未来予想図は、必ずある、と信じていた。

  でも小学校の先生の話では、今の子は、「ゆっくりしたい」「のんびりしたい」と頻繁に言うそうです。 塾やおけいこで忙しく、友達づきあいも気を使う。 「今でいい」との意見には精いっぱいな姿が浮かびます。 のびのびと遊び、時間があった僕たちは過去や未来、世界に思いをはせ、想像する余裕があった。

  夢が持てないのは、大人社会の投影。 僕らの世代が、感動や夢を伝えていないからだと思います。

  劇場版9作目「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(91年)に出てくる世界を昭和に戻そうとする大人たちは、僕らのノスタルジー。 でも、しんちゃんには「未来を生きたい」と語らせました。 目の前のことで精いっぱいかもしれないけれど、10年、20年先まで希望を持っていて欲しい、との願いを込めたのです。 次の作品では、しんちゃんは戦国時代にも行きました。 しんちゃんと一緒に、現実の小さな世界から飛び出して欲しかった。

  今、小学生を描いた劇場アニメを作っています。未来への希望が持てる作品になればと思います。



朝日新聞 2005年7月15日金曜日 13版22ページ)

これは朝日新聞の「家族で話そ!」というコーナーの特別版に掲載された原恵一監督の文章です。 愛知万博愛・地球博」の会場で小学生に、もしタイムマシンがあったらどの時代へ行ってみたいかを記者が聞いていて、それを元にその小学生たちの答えにからめつつ原監督が語っています。