柴田 : まぁ僕の場合、言いたいことがないから、消すのは簡単(笑)。 ときどき「訳者あとがき」で、「この作家はここでこういうことを書いているが、訳者としては若干異論がある」とかいったことを書いている人がいますが、そういうことを書く人の訳文は、概していいものではないですね。 作家と張り合おうと思ったら、翻訳などはせずに、自分で書くべきです。 張り合おうとは思わずに、むしろ作家にひたすら尽くそうとする奴隷根性が翻訳には必要だと思う。 とにかく、「原文のすばらしさを、なんとか伝えようと思う人」が向いているんじゃないでしょうか。 今の世の中、「本当の自分を見つけよう」とか、「真の自分を探そう」というような「個性神話」がますます強くなってきて、いったいどうなっているんでしょうかねぇ。 八十年代には「自己とは虚構にすぎない」とかみんな言ってたじゃない。 あの学習成果、どこへいっちゃったのかな?


ユリイカ2006年1月号『君は「自己消去」できるか?』P54 柴田元幸インタビュー)

ここで語られてる個性神話ってオリジナリティと言い換えてもいいのかも知れない。
いや知らないけど。

ちなみに文中の「八十年代」は原文では「八〇年代」となっているのだけど、この丸が気になるので漢字に変えております。 という事をメモしておくのを忘れていた。

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すごくひさしぶりにC堂さんが更新していたのだな。