手塚るみ子の『オサムシに伝えて』を読んで思いついた事など


手塚るみ子の『オサムシに伝えて』は、少し気の強い女の人が書いたような感じの文章なのだけど、そうい印象を感じさせる文章である事で、かえって手塚治虫の体調がすぐれなくなって行く辺りから、その事実の重みがより印象づけられているように感じた。 自分の父が癌であるという事を知らずに、いつものように我を通そうとしてしまった事とか、入院当初全然お見舞いに行かなかった事とか、当事者でなく手塚治虫をよく知ってるわけでもその漫画をよく読みこなしてきたわけでもない自分がその内容の辺りを読んでいても色々こみ上げてくるものがあった。 この本を読んでも、手塚治虫の漫画家としての実像や実生活での本当の姿や考えとかがよく分かるという分けではなくて、この本に書いてあるのはほぼ作者である手塚るみ子とその父親の手塚治虫の関係性だけといってもいいと思うし、そういう事は手塚治虫に関心がある人でももしかしたらあまり興味を引く事では無いのかも知れない。 けれどこの本はとてもいい本だと思う。何にとっていいのかよく分からないけど読むといい本だと思った。


手塚眞の『天才の息子』という本も、自分と父親の関係を書いた所もある本なのだけれども、『オサムシに伝えて』と比べるとその関係が希薄というか父親と息子とがあまり関係なくバラバラに書かれているような印象を受けたし、もっとぼんやりした印象の本だった。生活感があまり感じられないような文章というのかな。 生々しさというものを排除して書かれたかのような本だと思った。 あと、手塚眞の本にも手塚るみ子の本にも書いてあったけど、家族がそれぞれ自分の部屋を持っていていつもそれぞれ自分の部屋にこもって好きな事をしていて家族団らんや兄弟で遊ぶような事はあまり無かったという事で、どっちの本にも兄妹と何をしたというような話が全然出てこないのが不思議な感じだった。 1人っ子が3人暮らしているような感じだったのかな。 『天才の息子』からは家族がバラバラだった事についてネガティブな印象は全く感じなかったし、そもそも『天才の息子』という本自体ネガティブな事を出来るだけ書かないで置こうという意志に貫かれた本だと思うけど。 どちらの兄妹の本にも、自分の結婚相手を病床の父親に会ってもらい認めてもらおうとして果たせなかった事を悔やむエピソードが語られているのだけれども、手塚眞の方には入院中の父親に会わせる事とか結婚する事に母親が反対したかどうかが一切書かれていなくて、手塚るみ子の本には母親は時期的な事もあったろうしどちらの結婚にも当初は反対していたようだ。手塚るみ子の方は結局は別れたとの事だけども。