こないだ劇場版ワンピースを見に行った帰りに、ついでにしばらく行ってなかった書店を何件か回ったりした。 その中で、2階が漫画専門店になっている書店にも久しぶりに入ってみたら、大城のぼるの『汽車旅行』が復刻されていてちょっとびっくりした。 びっくりしたのは、たまたまひとつきくらい前に『汽車旅行』も収録された少年小説大系の別巻1を図書館で借りて読んでいたからなのだけど、そもそもこの漫画を読もうと思ったきっかけは、夏目房之介宮本大人らが順番に漫画についての文章を新聞に連載していたものを纏めて本にした『マンガの居場所』を読んでいて、その大城のぼるについて書かれたページに『汽車旅行』の画像が載っていて、それは、少年と少女が両端に後ろ姿でいて、真ん中に大きく汽車の窓があって、少年と少女が、その車窓から外の景色を眺めている光景を広角レンズで撮ったような画で、その画にすごく惹かれるものがあったからだった。


『汽車旅行』の内容は、父親とその息子が汽車で東京からどこまでだったかを行く話で、車内で他の乗り合わせたお客さん達と時々会話したりしつつ、汽車が通ったり停車したりする土地土地にちなんだ物語や時事などがそのつど語られるというものなのだけど、汽車旅行の合間に挟まれるエピソード的なものの方がむしろメインな感じで、汽車旅行自体は、その色々語られる物語や時事などの繋ぎ約なだけのように思えた。 で、自分が惹かれた広角カメラで撮ったような構図の画というのは、車内とか、駅とか、汽車にまつわるものに対してそういう構図で描かれていたのだけれども、旅行の合間に語られる物語などには、そういう広角で捉えたような描き方をしていなかったと思うしそれが残念な感じだった。


まぁ記憶力が無いことにかけては自信があるのでかなりあやふやなのだけど、これはいい加減に予想するに、この漫画を描く時に参考にした汽車に関する資料の写真が広角レンズを使って撮られたものだったからではないかなぁ。 つまり、普通の画角で撮られたり自分が想像した場面をあえてパースを付けて描いたわけじゃないので、資料の写真のないであろう汽車と関係のない物語、などには汽車の車内等のような構図にはならなかったのではないかな、という感じ。 それがいいとか悪いとかでなくて、その描き方の分裂した感じがなんか面白いと思った。 読み返してみたら全然違ってるかも知れないけど。


あと、漫画としては、汽車で行く先々でのその土地土地にまつわる情報の羅列をえんえんと読まされるような感じでしんどかったな。 前にヴェルヌの『海底二万海里』を読んだ時、ノーチラス号が新しい海域へ行くたびにその海に棲息している魚達を長々と羅列されていて読んでて泣きそうになったのを思い出してしまった。 よく分からないけどこういうのを百科全書的というのだっけか。 自分にそういう羅列された物事に対して知識や関心があれば楽しめたのかも。
『汽車旅行』に比べると、個人的には『汽車旅行』が収録されていた少年小説大系の別巻1なら、軽妙なノリの宮尾しげを絵物語『かるとびかるすけ』や、織田小星作で東風人(樺島勝一)画の『正チャンの冒険』とか、別巻4に収録されていた新関青花の『仲よし日記帳』の方が楽しめた。 それらに比べると、大城のぼるの『汽車旅行』や『火星探険』はちょっと生真面目な感じがした。 あと、同じく別巻4に入っていた『コグモの冒険』という漫画は、エピソードがことごとく虫が他の虫に食べられるという話だったのに笑ってしまった。 他にないんかい!とか。
マンガの居場所』には大城のぼるの『少女白菊』が傑作と書いてあったので、それをちょっと読んでみたいなぁ。 どうでもいいけどGoogleで少女白菊を検索すると真っ先に老女白菊の歌がヒットします、と思ったら孝女白菊だった。


ブラウザが落ちて追記していたのがデジタルのはざまに消えてしまった。 バトーがネット上でこんな目にあったら素子は復元してくれるのだろうかな。


で、孝女白菊を少し調べてみたけど、これは流行歌になったり絵本や無声映画になったりした物語詩で、帰ってこない父親を捜しに出る少女の話らしい。 図書館の蔵所検索をしたら講談社から2003年にも絵本が出版されてた。 詩の方は全集などで普通に読めるみたい。 ただ、この詩を書いたのは落合直文なのだけど、「明治17年から22年にかけての兵役中に、阿蘇地方で語り継がれた実話に基づいてこの詩を兵営内で作り、除隊後さらに推敲を重ねて発表した。」とか、「国文学者落合直文井上哲次郎博士(東大教授)の漢詩新体詩として書き直したもの」などあって、実際どういう経緯で作られたのかネットではよく分からなかった。 井上哲次郎阿蘇地方で語り継がれた実話に基づいて書いた漢詩を元に落合直文新体詩として書き直したものなのだろうか。 少女が主人公で題名が似ているから、案外大城のぼるの『少女白菊』という漫画は孝女白菊の詩や絵本、映画のどれかを元に描かれたものなのかも。


孝女白菊
http://www2.ocn.ne.jp/~woodp/kouzyo.html
孝女「白菊」の歌---落合直文
http://homepage3.nifty.com/TAD/poems_3/poem_33.htm
孝女白菊の歌 落合直文作詞・作曲者不詳
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/koujoshiragiku.html